2011-04-15

2011.04.14 ニブラ(連載中)

ニブラ-11.04.14

 みずみずしい空気に木漏れ日が心地いい。風はほとんどない。森の外には届いていなかった鳥の甲高い鳴き声が時折響き渡る。奥の方から聞こえているようだで、歯切れのいい鳴き声が不規則なリズムを刻むように聴こえてくるから、まるでこっちへ来いと誘われているようだ。特に何の気もなく、誘われる方向へ歩いて行く。奥へ奥へと。するとどうだろう、なんだか体が軽くなってきて、ふわふわと不思議な気分になってくる。まるで、大きなシャボン玉の中にでもいるかのように、視界が丸く歪曲して見える。森の木々がよけるように、前の方から道を開ける。あっという間に一本の長い道が森の真ん中を貫いて、これはもう進む他に案はないと思わせる。当然そいつにつられてとっくに歩きだしているから、今更何を拒むこともない。このままどこへ連れていくつもりだろうか。意識の奥の方へ、現実との境目は見失ってしまった。

つづく

Mateo=Rich

2011-04-11

2011.04.10 ニブラ (連載中)

ニブラ-11.04.10

 西へ向かった。西方は山間部。最高峰ははるか向こうで、とてもたどり着けそうな距離ではない。裾に広がる森がその最高峰を囲むように広がっている。樹木の密度はまちまちで、山の地肌が見えるところもある。森は中心に向かって緩やかに上っているから、ある程度進めば周辺地域を見渡せる場所があるかもしれない。そんな風に考えて、今いる砂地と草木が茂る森の境界線までやってきた。鬱蒼とした森が奥の奥まで続いているのが見える。この位置から見る限りでは、程よく日差しが差し込む清々しい雑木林だ。しかしここは見知らぬ地の深い森の入り口なのだから、思わぬ危険が待ち受けているかもしれない。国も地域もわからないとなれば、想像を超えた生態系がはぐくまれていて、得体ののしれない獰猛な奴らが、足を踏み入れた瞬間に襲い掛かってこないとも言い切れない。ここはひとつ用心しなければならないと、息を大きく呑み込んで最初の一歩を踏み出した。特に異変はない。ならもう一歩と、少しずつ奥へ進んでいく。しばらくして振り向くともう入り口は見えなくなっている。それほど奥まではきていないはずだから、少し違和感はあるけれど、でもまあ、どうせ外の世界はただの砂地で、生活もままならないのだから、戻る必要もないだろうと再び前を向いた。よっぽどこの森の方が過ごしやすそうじゃないか。そう思いながら歩を進めていった。

つづく
Mateo=Rich

2011-04-08

2011.04.07 ニブラ (連載します)

ニブラ-11.04.07

 山岳地帯。赤壁の空は、鉄壁とも思われる山脈に落ちてゆく。遠くから眺めれば、そこらにある地上と大宇宙が溶け合う見事な景色だ。
 
 それにしても、いつの間にこんな場所にやってきたのだろうか。ある日突然この地に立っていたものだから、ここがどこなのかも、そのわけもわからない。わかることは、今この場所から見たり、感じたりできるものだけだ。だからまずは、足元に長めの杭を打ちつけて、基準点を作ることから始めなければならない。そうしたら今度は、その杭を中心にした360度を4分割して方角を設定するといい。ちょうど今さっき、太陽が落ちていった山脈のあの方角を西にしておくと馴染みがよさそうだ。とりあえずここまでしておけば、今後何かに遭遇したり、発見したりした時に、位置情報を割り当てることができるから何かといい。

つづく
Mateo=Rich

2011-04-04

2011.04.04 イストラ半島紀 23:空中着陸 (最終回)

23 空中着陸

 食事を終えて、身分不相応のこの空間にも慣れてきて、別に特別なことでもないように思えてきている。人間の適応能力とは時に厄介だ。贅沢も始めてしまえば当たり前になってしまうのだから。

 落ち着いた気持ちで窓の外を眺めていると、今日も空には無数の星が散らばっている。星に願いを言うけれど、これだけあったらいったいどれをチョイスしていいのかもわからない。そういう意味では星に願うなら地上がおすすめかもしれない。雲の切れ間にひときわ輝く一つを狙えばいいのだから。こんな風に上空を飛ぶときは、無数の星達をも抱え込んでいる宇宙に思いをはせたらどうか。その方が、より正確に、万物の中での自分の立ち位置やサイズを感じることができるから。そんな立場で見る宇宙は、実に無機質で、願いをかなえるどころか、こちらには全くの無関心。どうにでもなりやがれといった態度だ。子供のころから宇宙のそういう態度には気付いていた。そしていつからか、それが宇宙に限らず、地球と人類、社会と個人の間にもあてはまることに気付いていた。個人に無関心なのだから、当然何の期待もしていない。だから個人は生きたいように生きればいい。酔ったせいもあってか、そんな風に、原点に立ち戻らせてくれる窓の景色だった。

 何か一つ、はっきりした答えがあるわけではない。旅を振り返って思い出すのは、ブランコらと過ごした楽しい時間や、それぞれの町でみた現在の人々の暮らしとか。窓の景色をバックに思い浮かべる旅の思い出の一コマ一コマが、まるで映画の様に頭の中を流れていく。なかなかいい旅だった。日本に帰ったらこの旅のことを書こう。特に目的はないけど、邪念のない、純粋な表現欲を満たすためだけに書こう。そう決めたとき、どこか懐かしい感覚と、新しい旅のはじまりを感じた。

 機体はシベリア上空あたりか。成田まではどれくらい。着陸の時を待たずして、イストラ半島紀を空中着陸にて結ぶ。



Mateo=Rich

2011-04-01

2011.04.01 イストラ半島紀 22:ビジネスクラスプアー

22 ビジネスクラスプアー


 ビールを飲んだからうとうとしてくる。時差対策もあって食事が終わるまでは眠るわけにはいかないと踏ん張っていたけど、いよいよ厳しくなってきた。国際線ではお馴染みの先取り映画でも見ようかとモニターを操作すると、いったいこれはどうしたことか、うまく再生できない。あの手この手で試しても回復しない。これはお手上げだとフライトアテンダントに修復を要請したけど、彼女たちにもこれはお手上げのようで、とうとうパーサーが出てくる展開となった。当然ながら一度飛び立ってしまった機内では、打てる手段は限られているようで、誰が出てきたからどうにかなる事態でもなさそうだ。さすがにこちらも大人だから、あきらめようと思っていたその時、願ってもない提案がパーサーから伝えられた。なんとビジネスクラスに移らせてくれるという。想定外のランクアップだ。こいつはありがたいと二つ返事で了承した。

案内されるままに、機体の前へ前へと進んでいく。すると現れたゆとりの空間。貧乏根性丸出しで踊り出しそうな気分をぐっと抑えて、広く柔らかなクッションに全身を沈めた。悔しい気持ちもあるからあまりこんなこと思いたくはなかったけど、正直これほどまでに違うものか。こんなに快適なら、いつまででも飛んでいたい。食事はいったい何を食べさせてくれるんだい。

オーケイ とりあえずプリーズ ビアープリーズ
キリッと冷えたドイツ産を頼むよ

貧乏根性が止められない。

つづく

Mateo=Rich

2011-03-31

2011.03.29 イストラ半島紀 21:帰国の途について

21 帰国の途について

 ようやくのアナウンスで小型機に乗り込もうと外へ出て、乗客の列に紛れて歩く。いつからか雨が降っている。なるほどフライトの遅れは悪天候によるものだったか。海外ではどうしても言葉が不自由だから情報が不足しがちだ。しかし悪天候でのフライトとなると、飛行機嫌いの人間にはつらい。行きと同様、景色を楽しむ余裕はなさそうだ。数時間遅れでようやく離陸したものの、予想は的中、シートベルト装着ランプは灯りっぱなしで機体はグラングラン。これじゃまるで絶叫マシーンじゃないか。ミュンヘンまでの一時間強がずいぶん長く感じた。おかげさまで機内でのことは、ほとんど何も覚えていない。ただ怯えて座っていただけだ。

 何とかたどり着いたミュンヘンは、今日も雨。上空は荒れていたのに、地上はしとしと小雨。機体のエンジン付近では、雨が蒸発して湯気が上がっている。濡れた路面を歩いて航空会社のカウンターへ。大幅に遅れてしまったから、とっくにあきらめていた今夜の成田行きだったけど、こちらは朗報、待っていてくれたみたいで何とか接続できた。辛いのは、煙草を吸う暇もなくロングフライトにいどまなければならないことくらいか。成田までの所要時間は12時間弱。到着予定は、日本時間で夕方4時前後の予定だ。

 何とか無事帰国の途について、離陸待ちの座席にもたれかかる。肩の力が抜けて、ようやく気持ちが落ち着くのを感じた。ゆったりビールでも飲むとしよう。

つづく

Mateo=Rich

2011.03.31 イストラ半島紀 20:アウェイ感

20 アウェイ感

 フライト待ちの空港ロビーで、特に何をということもなく待ち時間を過ごす。ザグレブ空港は特に興味深いショップがあるわけでもないし、旅の土産を大量購入する柄でもないから時間を持て余してしまう。ふらふらしていたらよくあるブランド品のセレクトショップがあったから、ブランコが愛用していた様な大き目のサングラスを買おうと物色した。これも一つ、旅の思い出になればいいと、レイバンを一つ奮発。確かブランコのレンズは真っ黒だったけど、黒髪の自分にも似合うように茶色のレンズのものをチョイスした。レンズの色以外はブランコ仕様、ザグレブ流だ。さっそく装着して今度はお菓子などの食料品が並ぶゾーンにやってきて、こちらは買う気もないのに物色した。子どものころから思っていたけど、海外のお菓子のパッケージからは、気品を感じない。どこか大味で、購買意欲をそそらない。味も含めて、日本の繊細な感覚は、世界に誇れるような気がする。そんなことを考えていたら、なんだか日本が恋しくなってきた。

 残念なニュースはその直後に入った。決して珍しいことではないのだろうけど、ミュンヘン行きの便が大幅に遅れるという。ルフトハンザ航空の説明では、夕方のミュンヘン発成田行きの便に乗れるかは、行ってみないとわからないらしい。お菓子から始まる故郷への思いで、センチメンタルになっていた心は、何とか持ちこたえているけど、正直しんどい。そんなタイミングでたたみかける様に、軍服のクロアチア兵が集団で前を歩いて行くから、アウェイ感はピーク値付近で大揺れだ。こちらがひるめば、その妙に冷静で鋭い視線にロックオンされそうな雰囲気がある。ブランコ仕様の大きめのサングラスが、幾分動揺を隠してくれたのは唯一の救いかもしれない。それにしても、鍛え上げられたがたいと軍服の組み合わせには、異様な威圧感があるもので、いざという時には命をかけなければならない軍人には申し訳ない気もするけど、とてもじゃないがいい見た目ではない。

 旅も大詰め、帰国の空港ロビーにて、母国日本との距離感がつかめない。

つづく

Mateo=Rich